教育資金計画を子の成長に同期させる:ステージ別必要額と積立NISA調整の実践例
はじめに:子の成長と教育資金計画の連動
教育資金の準備は、多くの場合、お子様が誕生されてから大学を卒業されるまでの長期にわたるプロジェクトとなります。この期間中、お子様の成長ステージ(小学校、中学校、高校、大学など)によって必要となる教育資金の性質や金額は変化し、それに伴い、教育資金計画や積立NISAを含む資産運用計画も柔軟に見直していく必要が生じます。
特に、40代半ばで既に教育資金の積立を開始されている方々におかれましては、計画の初期段階から次のステージへの移行期に差し掛かっている方も多いかと存じます。本記事では、お子様の成長ステージごとの教育資金の考え方と、それに合わせた積立NISAを含む資産運用計画の見直し、具体的な調整方法について、実践的な視点から解説してまいります。
子供の成長ステージ別 必要教育資金の考え方
お子様の成長に伴い、教育にかかる費用は段階的に増加する傾向があります。特に大学進学時にはまとまった資金が必要となることが一般的です。
一般的に、教育資金は以下のステージに分けて考えることが多いです。
- 小学校(6年間): 公立であれば費用は比較的抑えられますが、私立の場合は大きな費用がかかります。習い事や塾なども含めると、家庭ごとの支出には幅が出ます。
- 中学校(3年間): 公立・私立の選択で費用は大きく異なります。公立でも学習塾費用が増える傾向にあります。
- 高校(3年間): 中学校と同様、公立・私立での費用の差が大きいステージです。大学受験に向けた予備校費用などが加わる可能性もあります。
- 大学・大学院(4年間以上): 最もまとまった資金が必要となるステージです。入学金、授業料に加え、下宿費用や生活費なども考慮する必要があります。国立、私立(文系・理系・医歯薬系)によってかかる費用は大きく異なります。
例えば、文部科学省の調査などを参考にすると、小学校入学から大学卒業までの教育費合計は、進路によって数千万円単位で変動することが分かります。この「いつ」「どれくらい」の資金が必要になるかという見通しを、お子様の現在のステージに合わせて具体的に把握することが、その後の資産運用計画を立てる上での出発点となります。
ステージに合わせた積立NISA計画の見直しとポートフォリオ調整
教育資金を積立NISAで準備されている場合、お子様の成長ステージに合わせて運用計画を見直すことが重要です。特に、進学などの資金需要期が近づくにつれて、運用におけるリスクをどのように調整するかが鍵となります。
積立額と投資対象の見直し
お子様の年齢が上がるにつれて、教育費支出が増加したり、目標とする進路が具体的になったりすることで、必要な教育資金総額や積立ペースの見直しが必要になる場合があります。収入が増えた場合は積立額を増やす、あるいは特定口座などを活用して追加で資産形成を行うといった選択肢も検討できます。
また、積立NISAの非課税投資枠(年間120万円、生涯1800万円)をどのように活用し続けるか、夫婦それぞれでNISA枠を活用している場合は、それぞれの役割分担を見直すといったことも考えられます。
リスク許容度の変化とポートフォリオ調整
お子様の成長ステージが進み、教育資金が必要となる時期が迫るにつれて、一般的には運用におけるリスクを段階的に下げていくことが推奨されます。これは、資金が必要となる直前に市場が大きく下落した場合、必要な金額が確保できなくなるリスクを軽減するためです。
具体的なポートフォリオ調整の考え方としては、以下のような段階的なアプローチが考えられます。
- 小学校低学年〜中学年(約10年以上先): まだ資金が必要になるまで時間があるため、積極的にリスクを取れる時期と考えられます。国内外の株式指数に連動する投資信託などを中心に、成長を重視したポートフォリオを構築することが考えられます。例えば、「全世界株式(除く日本)」や「S&P500」などのインデックスファンドを中心にポートフォリオの大部分を構成するなどが挙げられます。
- 小学校高学年〜中学校(約5年〜10年先): 大学入学までの期間が少しずつ短くなってくる時期です。リスク資産の割合はまだ高めでも良いかもしれませんが、徐々に債券など比較的リスクの低い資産クラスをポートフォリオに組み入れることを検討し始める段階です。例えば、株式:債券の比率を80:20や70:30程度に調整するといった考え方です。
- 高校生〜大学入学数年前(約3年〜5年先): 資金が必要となる時期が目前に迫ってきます。この時期にはリスクを大きく抑え、運用益よりも元本保全を重視するポートフォリオへとシフトしていく必要があります。株式の割合をさらに減らし、債券や国内債券に連動するファンド、あるいは国内REIT(不動産投資信託)など、値動きが比較的穏やかな資産クラスの割合を高めます。株式:債券の比率を50:50、あるいはさらに債券比率を高めることも考えられます。
- 大学入学直前(3年以内): 運用している資金のうち、近い将来必要になる資金については、原則として元本変動リスクのある資産での運用は避けるべき段階です。積立NISAで運用していた資金のうち、数年以内に使う予定のある分については、安全資産(預貯金や個人向け国債など)に移し替える、あるいは積立NISA口座内でリスクの極めて低い資産(国内債券ファンドやMMFなど)にスイッチングするといった対応が考えられます。
このポートフォリオ調整は、特定の資産を売却して別の資産を購入する「リバランス」や「スイッチング」によって行われます。お子様の進学ステージが明確になるタイミングや、定期的な見直し(例えば1年に一度)の際に実施することが効果的です。
積立NISA以外の資金準備・運用方法との連携
教育資金準備においては、積立NISAだけでなく、他の金融商品や制度と連携させることが、より盤石な計画を構築する上で重要です。
- 預貯金: 近い将来使う予定のある資金や、万が一のための予備資金は、リスクのない預貯金で確保しておくことが基本です。特に大学入学金や1年目の学費など、必要時期が確定している資金は、運用に回さず安全に置いておくべきです。
- 学資保険: 積立NISAのような投資とは性質が異なりますが、貯蓄性のある保険として教育資金準備の一つの手段となります。保険料の払い込みは積立NISAの運用とは別のキャッシュフローとして管理することで、計画全体のバランスを取りやすくなります。
- 特定口座: 積立NISAの非課税枠を超える資産運用を行う場合や、より多様な金融商品(個別株、海外ETFなど)に投資したい場合に活用します。教育資金向けの運用の一部を特定口座で行う場合、積立NISAと同様に、必要資金の時期に合わせたリスク調整は重要です。
- iDeCo: 老後資金を準備するための制度ですが、所得控除などの税制メリットが大きいため、積極的に活用することで将来の可処分所得を増やし、結果的に教育資金準備に回せる資金を間接的に増やす効果が期待できます。ただし、原則として60歳まで引き出せないため、教育資金そのものを準備する目的には向きません。
これらの資産全体で、お子様の成長ステージごとの必要資金をどのように準備し、どの資産で運用するかという全体像を描くことが、効果的な教育資金計画につながります。
実践へのアドバイス:計画の見直しを習慣に
教育資金計画は一度立てたら終わりではなく、定期的にお子様の成長、ご自身の収入・支出、金融市場の状況に合わせて見直すことが不可欠です。
- 定期的なチェックポイントの設定: お子様の誕生日や年度初め、長期休暇などを活用して、少なくとも年に一度は教育資金計画全体と資産運用の状況を確認する機会を設けましょう。
- ライフイベントとの連携: お子様の進学(小学校入学、中学校入学、高校入学など)、自身の昇進・転職、住宅購入、車の買い替えなど、大きなライフイベントが発生した際は、その都度計画を見直す絶好の機会となります。
- 夫婦での情報共有と合意形成: 教育資金計画や資産運用は家族全体の目標達成に関わるため、夫婦間で情報を共有し、方針について話し合い、合意形成を図ることが非常に重要です。
- 専門家への相談: 計画の立て方や運用方法について不安がある場合や、より複雑な状況(例えば複数の目標がある場合や、自営業の場合など)においては、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家に相談することも有効な手段です。
まとめ
教育資金計画は、お子様の成長ステージに合わせて必要となる資金や取るべきリスクの考え方が変化する、ダイナミックなものです。積立NISAは教育資金準備の強力なツールですが、単独で考えるのではなく、お子様の成長段階に応じた全体的な資金計画の中で、他の資産や制度と連携させながら運用を調整していく視点が求められます。
定期的な計画の見直しと、必要に応じた積立額やポートフォリオの調整を行うことで、教育資金という長期的な目標達成に向けた道のりを、より確実で安心できるものとしていくことができるでしょう。