教育資金計画における積立NISAリバランス実践:目標期間とリスク許容度変化を考慮した具体的な調整事例
教育資金の準備において、積立NISAを活用した資産形成は有効な手段の一つとして広く認識されています。長期にわたる積立投資では、運用状況やライフイベントの変化に応じてポートフォリオを見直す「リバランス」が重要となります。特に教育資金という明確な目標がある場合、その目標までの期間(子の成長段階)と自身の経済状況や考え方の変化に伴うリスク許容度の変化を考慮したリバランスは、目標達成確度を高める上で欠かせません。
本稿では、教育資金計画における積立NISA運用について、目標期間とリスク許容度の変化に応じたリバランスの考え方、具体的な判断基準、そして先輩パパママの事例(架空設定)を通して、実践的なアプローチをご紹介します。
教育資金目標とリスク許容度の関係性
教育資金は、子の進学という比較的明確な時期に必要となる資金です。そのため、目標までの期間が運用戦略において重要な要素となります。一般的に、目標期間が長いほどリスク資産の比率を高めることが期待リターン向上につながると考えられますが、期間が短くなるにつれて、元本確保を重視しリスク資産の比率を下げる「リスク低減」がセオリーとされています。
同時に、自身の年齢、キャリアの進展、収入・支出の変化、家族構成の変化、さらには市場環境に対する考え方などによって、リスク許容度は変化し得ます。例えば、収入が安定し予備資金が増えたことでリスクを少し取れるようになったり、逆に子が進学を控え教育費負担が増加する見込みで保守的な運用を志向するようになったりといった変化が考えられます。
効果的なリバランスは、これらの「目標期間の短縮」と「リスク許容度の変化」の両面を考慮して行うことが求められます。
リバランスの具体的な判断基準
リバランスを行うべきかどうかの判断は、いくつかの基準に基づいて行うことができます。
- ポートフォリオの資産配分比率の乖離: 当初設定した目標とする資産配分比率から、運用によって乖離が生じた場合にリバランスを行います。例えば、「国内株式30%:海外株式50%:国内債券20%」という目標に対し、株価上昇により株式比率が大幅に高まった場合などがこれにあたります。乖離率が一定以上(例えば5%や10%など、自身で事前にルールを決めておく)となった時点で検討します。
- 目標期間の短縮: 子の年齢が上がり、教育資金が必要となる時期が近づいた場合です。例えば、小学校入学、中学校入学、高校入学、大学入学前など、ライフステージの節目でポートフォリオ全体のリスク度合いを見直します。
- 自身のリスク許容度の変化: 収入の変動、家族状況の変化、大きな資産の取得や売却、あるいは自身や家族の健康状態の変化など、個人的な状況の変化によってリスクに対する考え方が変わった場合です。
- 市場環境の大きな変化: 想定外の金融危機や大きな経済変動などにより、市場の状況が大きく変化し、当初の前提が崩れた場合です。ただし、短期的な市場変動に一喜一憂するのではなく、自身の目標とリスク許容度に基づいて冷静な判断が必要です。
事例で見る目標期間とリスク許容度変化に応じた調整アプローチ
ここでは、架空の事例を通じて、目標期間とリスク許容度の変化に応じた具体的なリバランスの考え方をご紹介します。
事例1:子の大学進学が近づき、リスク許容度を低下させるケース
- 家族構成: 40代後半夫婦、高校1年生の子1人
- 当初計画: 子が小学校低学年の頃から積立NISAを開始。「海外株式インデックス70%:国内株式インデックス30%」で運用。目標期間は大学入学まで15年間。リスク許容度は高め。
- 現在の状況: 子が高校1年生となり、大学進学まで残り約3年。積立NISAの運用益もあり資産は順調に増加。一方で、必要な教育資金が具体的に見え始め、元本割れリスクを低減したいという意識が強くなった(リスク許容度低下)。
- リバランスの検討: 目標期間が短縮され、リスク許容度も低下したため、株式比率を減らし、より安全性の高い資産へシフトすることを検討。
- 具体的な調整例: 積立NISA口座内の資産配分を「海外株式インデックス40%:国内株式インデックス20%:国内債券ファンド30%:バランス型ファンド(安定型)10%」へ変更。これは、既存の投資信託を一部売却し、異なる資産クラスの投資信託を購入することで実現します。(※ 積立NISA口座内では、購入した投資信託を売却して別の投資信託を購入することは可能ですが、一度売却して非課税枠を使った分を再度利用することはできません。この点は考慮が必要です。) または、新規積立設定で毎月の購入比率を変更し、徐々に目標配分に近づけるといった方法もあります。
事例2:市場変動による乖離が発生したが、リスク許容度を維持するケース
- 家族構成: 40代前半夫婦、小学校4年生の子1人
- 当初計画: 子が小学校入学時に積立NISAを開始。「全世界株式インデックス80%:先進国債券インデックス20%」で運用。目標期間は大学入学まで約10年間。リスク許容度は高め〜中程度。
- 現在の状況: 市場全体が一時的に大きく下落し、株式評価額が低下。これによりポートフォリオの株式比率が当初設定より大きく低下(乖離発生)。自身の収入や資産状況に大きな変化はなく、教育資金目標達成までまだ期間もあるため、リスク許容度は維持できている。
- リバランスの検討: 市場変動による乖離を修正し、当初の目標資産配分に戻すことを検討。リスク許容度も維持できているため、リスク資産を減らす必要はないと判断。
- 具体的な調整例: 低下した株式比率を回復させるため、積立NISA口座内の債券ファンドの一部を売却し、全世界株式インデックスファンドを買い増し、当初の「全世界株式インデックス80%:先進国債券インデックス20%」の比率に戻す。あるいは、今後の積立設定で株式比率を一時的に高めに設定し、目標比率に戻るように調整するといった方法も考えられます。
事例3:収入増によりリスク許容度が向上し、資産成長を加速させたいケース
- 家族構成: 40代後半夫婦、中学1年生の子1人
- 当初計画: 子が小学校低学年の頃に積立NISAを開始。「バランス型ファンド(内外株式均等)50%:国内債券ファンド50%」で運用。目標期間は大学入学まで約10年間。リスク許容度は中程度。
- 現在の状況: 自身の昇進により収入が大幅に増加し、教育資金以外の貯蓄も十分確保できた。教育資金目標達成までの期間は約5年と短くなったものの、リスク許容度が以前より向上し、積立NISAの資産成長をもう少し期待したいと考えるようになった。
- リバランスの検討: リスク許容度の向上を反映し、リスク資産の比率を微増させることを検討。ただし、目標期間が短いことも考慮し、急激なリスク増加は避ける。
- 具体的な調整例: 積立NISA口座内の資産配分を「バランス型ファンド(内外株式均等)60%:国内債券ファンド40%」に変更。あるいは、今後の積立設定でバランス型ファンドへの積立額を増やすといった方法で、緩やかにリスク資産比率を高める。
より高度な視点と注意点
- 積立NISAと課税口座(特定口座など)の連携: 教育資金全体として資産形成を行っている場合、積立NISA口座だけでなく、特定口座などで運用している資産も含めた全体での資産配分を把握し、リバランスを考えることが重要です。積立NISA口座内だけでは調整が難しい場合でも、課税口座を組み合わせることで柔軟な対応が可能になります。ただし、課税口座での売却には税金が発生する可能性があるため、その点も考慮が必要です。
- リバランスの頻度: リバランスは頻繁に行いすぎると手間がかかり、売買コスト(信託財産留保額など)が発生する場合もあります。年に1回や半年に1回など、あらかじめ行う頻度を決めておくと良いでしょう。ただし、市場の大きな変動時や自身のライフステージに大きな変化があった場合は、定例外で検討することも必要です。
- 税務上の考慮: 積立NISA口座内での売買益は非課税ですが、課税口座で運用している資産をリバランスのために売却すると、利益に対して約20%の税金がかかります。教育資金の引き出し計画と合わせて、税負担も考慮した上で全体的なリバランス戦略を検討することが望ましいです。
まとめ
教育資金計画における積立NISA運用では、目標期間の短縮と自身のライフステージに伴うリスク許容度の変化を考慮した計画的なリバランスが、目標達成の確度を高める鍵となります。ポートフォリオの乖離、目標期間、自身のリスク許容度変化、市場環境といった判断基準を明確にし、定期的に見直しを行うことが推奨されます。
本稿でご紹介した事例はあくまで一例ですが、ご自身の状況に合わせて具体的な資産配分や調整方法を検討する際の参考としていただければ幸いです。教育資金計画は長期にわたる取り組みです。変化に適応しながら、着実に目標達成を目指しましょう。