教育資金ピーク期を見据えたポートフォリオ再構築:積立NISAと他資産の段階的リスク抑制と資産活用順序
教育資金の準備は長期にわたる取り組みであり、積立NISAなどを活用した資産形成は有効な手段の一つです。しかし、お子さまの進学などにより教育資金が必要となる時期が近づくにつれて、これまでの「増やす」ことを主眼とした運用から、「減らさない」「必要な時に確実に引き出す」ための準備へと、戦略を転換していく必要が生じます。特に、既に一定の資産を形成されている方にとって、教育資金が必要となるピーク期に向けたポートフォリオ全体の再構築と、資産の段階的なリスク抑制、そして効率的かつ税負担を考慮した資産活用順序の検討は重要な課題となります。
教育資金ピーク期に向けたポートフォリオ再構築の考え方
教育資金の必要な時期が間近に迫った段階では、市場の短期的な変動による資産価値の減少リスクを可能な限り抑えることが最も優先されるべき目標となります。大学入学など、多額の資金が必要となる時期は確定していることが多いため、その直前に資産が大きく目減りする事態は避けなければなりません。
この時期のポートフォリオ再構築は、積立NISAで運用している資産だけでなく、教育資金のために準備している預貯金、学資保険や個人年金保険、そして特定口座などで運用している資産など、教育資金として確保している資産全体を対象として考えることが重要です。全体のバランスを見て、目標とする教育資金の必要額に対して、どのような資産構成であればリスクを抑えつつ、確実に資金を準備できるかを検討します。
段階的なリスク抑制戦略の実践
リスク抑制は一度にすべてを行うのではなく、教育資金が必要となるまでの期間に応じて段階的に行うのが一般的なアプローチです。これは「グライドパス」と呼ばれる考え方にも通じますが、目標時期が近づくにつれて、ポートフォリオに占めるリスク資産(株式や投資信託の比率)を徐々に減らし、安全資産(預貯金、国内債券など)の比率を高めていきます。
具体的な期間設定とリスク資産比率の目安は、個々のリスク許容度や教育資金の目標額、現在の資産状況によって異なりますが、一例として以下のような段階が考えられます。
- 必要時期まで5年以上: 積立NISAを中心に、これまで通り成長を重視したポートフォリオ(例:株式投信中心)を継続しつつ、特定の時期(例:中学校卒業時など)に一度大きなリスク見直しを行う計画を立てる。
- 必要時期まで3〜5年: 積立NISAや特定口座で保有するリスク資産の一部を利益確定し、預貯金や国内外の債券(または債券型投資信託)など、価格変動リスクの低い資産への比率を高め始める。積立NISA内でのリバランスも検討。(例:株式投信50% → 株式投信30-40%、債券・預貯金60-70%)
- 必要時期まで1〜3年: さらにリスク資産比率を低下させ、教育資金として確実に必要となる金額の大半を預貯金や個人向け国債などの安全資産で確保する。積立NISAからの引き出し(売却)も視野に入れる。(例:株式投信20%以下、預貯金・債券80%以上)
- 必要時期まで1年未満: 教育資金として必要となる全額を安全資産で確保。積立NISAの全額または必要額を売却し、引き出しやすい預貯金等へ移管。
積立NISA内で運用している資産は非課税メリットを最大限に活かすため、可能であれば必要時期まで保有を続けたいところですが、リスク抑制を優先する場合は躊躇なく売却を検討すべきです。売却によって得た資金は、すぐに必要でなくとも、価格変動リスクのない預貯金等に移しておくことで、市場の下落から資産を守ることができます。
教育資金の効率的な資産活用順序
教育資金が必要となった際、どの資産から引き出して(売却・解約して)利用するかも重要な戦略です。資産の種類によって、税金、手数料、解約時のペナルティの有無などが異なるため、これらを総合的に考慮して順序を決定します。
一般的な資産活用順序の考え方は以下の通りです。
- いつでも引き出し可能な預貯金: 緊急時や細かな支出に対応できるため、まずはここから活用するのが合理的です。
- 積立NISA口座内の資産: 運用益・分配金が非課税であるため、売却時に税金がかかりません。必要な金額だけを売却し、効率的に資金を確保できます。ただし、一度売却すると非課税枠を再利用することはできません。
- 特定口座などの課税口座内の資産: 売却益や配当金に対して税金(原則20.315%)がかかります。積立NISAの次に活用することで、非課税メリットを最大限に享受した後、課税口座からの引き出しとなります。売却益が多い場合は、税負担を考慮する必要があります。
- 学資保険や個人年金保険: 契約内容によりますが、満期前に解約すると元本割れするリスクがあります。契約時に定めた受取時期や金額が教育資金の必要時期と合致していれば活用しやすいですが、早期解約は慎重に判断すべきです。
- その他資産(不動産、株式など): 流動性が低い、価格変動が大きい、売却に時間と手間がかかる、税負担が大きいなどの特性があります。教育資金のメインとしてではなく、他の資産で足りない分を補う、あるいは特定の大きな支出(例:留学費用など)に充当する目的で計画的に活用を検討します。
この順序はあくまで一般的な考え方であり、ご自身の資産構成、税金対策、資金の必要時期や金額に応じて最適な順序は異なります。特に特定口座で含み損を抱えている資産がある場合、敢えて先に売却して損益通算を行うなど、税務上の考慮も加わることがあります。
まとめ
教育資金のピーク期に向けたポートフォリオの再構築と資産活用計画は、これまでの資産形成の成果を教育という目標に確実につなげるための最終調整段階です。積立NISAの非課税メリットを最大限に活かしつつも、全体としてのリスクを適切に抑制し、必要な時に効率的に資金を引き出せるよう準備を進めることが重要です。定期的に保有資産全体を見直し、必要に応じて計画を修正していく柔軟な姿勢も求められます。この段階でご自身の判断に迷う場合は、ファイナンシャルプランナーなどの専門家に相談することも有効な選択肢の一つとなるでしょう。