教育資金の「使う時期」を意識した資産活用戦略:積立NISAを含むポートフォリオ全体での計画的な資金捻出
教育資金は、子の進学段階に応じて必要となる時期と金額が異なります。特に大学入学以降は、入学金や授業料など、まとまった資金が必要となる期間が数年にわたって続きます。この「使う時期」を見据え、これまで積み上げてきた資産をどのように計画的に取り崩していくかは、教育資金計画の最終段階における重要な課題です。積立NISAを活用されている方にとって、非課税で増やした資産を効率的に、かつ他の保有資産との連携の中でどのように活用するかが問われます。
教育資金の必要時期と金額を正確に把握する
具体的な資産活用戦略を立てる第一歩は、教育資金が必要となる時期と金額を正確に把握することです。子の進路によって大きく異なりますが、一般的に以下のような費用が発生します。
- 入学時: 入学金、前期授業料、施設費、教材費など
- 在学中(毎年): 授業料、施設費、実習費、その他諸経費、通学費、一人暮らしの場合は生活費、仕送りなど
- その他: 受験費用、予備校費用、留学費用、部活動・サークル費用など
例えば、私立大学(文系)の4年間で必要となる学費の平均は約400万円〜500万円程度、理系ではさらに高くなる傾向があります。これに加えて、自宅外通学の場合は年間100万円以上の生活費が必要となることも珍しくありません。これらの費用が、入学前後にまとまって、あるいは毎年継続的に必要となる時期を具体的に特定することが重要です。
保有資産全体の棚卸しと評価
教育資金を捻出する際は、積立NISAだけでなく、預貯金、特定口座で運用している投資信託や株式、場合によってはその他の資産(学資保険の満期金、親からの支援など)を含めたポートフォリオ全体で考える必要があります。それぞれの資産について、以下の点を整理します。
- 種類と評価額: 積立NISA、特定口座(投資信託A、株式Bなど)、預貯金、その他
- 含み益・含み損: 特定口座や積立NISAにおける取得価額に対する評価額の状況
- 税務上の特性: 非課税(積立NISA)、課税(特定口座)、非課税(預貯金)など
- 流動性: すぐに換金できるか(預貯金は高い、投資信託は数日かかるなど)
- 今後の親のライフプランとの関連: 将来の老後資金や他のライフイベント(住宅リフォームなど)に充当する予定があるか
この棚卸しを通じて、どの資産にどの程度の資金があり、それぞれの特性が教育資金の資金捻出に適しているか否かを評価します。
資金捻出の基本的な考え方:税効率とリスク抑制
教育資金の必要時期が近づくにつれて、資産運用のリスクを徐々に抑制していくことが一般的ですが、資金を実際に捻出する段階では、税効率と親の将来の資金計画への影響を考慮した取り崩し順序が重要になります。
基本的な考え方としては、以下の優先順位が考えられます。
- 教育資金のために確保していた預貯金: 流動性が高く、元本割れのリスクがないため、まずはこちらから活用することを検討します。
- 積立NISAの資産: 非課税で運用益を受け取れるため、税負担を抑えながら資金を捻出できます。必要となる金額に応じて、計画的に売却を進めます。
- 特定口座で含み益が出ている資産: 税負担が発生しますが、必要に応じて売却します。含み損が出ている資産との損益通算なども検討し、税負担を抑える工夫が可能です。
- 特定口座で含み損が出ている資産: 必要性が低い場合は、無理に売却せず、将来の値上がりを待つという選択肢もあります。ただし、含み益との損益通算のためにあえて売却するという戦略もあり得ます。
- その他の資産: 学資保険の満期金や、親からの贈与なども計画に組み込みます。
この順序はあくまで一例であり、個々の資産状況、含み損益の状況、必要となる資金の性質(一括か継続か)、そして親自身の退職時期や老後資金計画によって最適な戦略は異なります。重要なのは、漠然と取り崩すのではなく、税負担を最小限に抑えつつ、親の将来の資金繰りに過度な影響を与えないように計画することです。
具体的な資産クラス別の売却・活用戦略
積立NISA資産の活用
積立NISAは非課税期間に制限がありましたが、新NISAでは非課税保有期間が無期限となりました。教育資金としての利用を考える場合、非課税のメリットを最大限に享受しながら必要な資金を捻出できます。
- 売却のタイミング: 大学入学前年の秋頃から、必要となる金額に応じて段階的に売却を開始することを検討できます。これにより、急激な市場変動リスクを避けつつ、必要な時期に資金を確保しやすくなります。
- 売却の判断基準: 必要資金の確保が最優先ですが、市場が大きく下落している局面での売却は避けたいと考える場合、預貯金や特定口座資産を先に活用することも選択肢となります。
- 全額売却か部分売却か: 入学金などまとまった資金が必要な場合は一部または全額を売却し、毎年の授業料は都度必要な金額を売却するなど、必要に応じて柔軟に対応します。
特定口座資産の活用
特定口座で運用している資産は、売却益に対して税金(譲渡所得税等)が発生します。教育資金に充てるために売却する際は、税負担を考慮した戦略が重要です。
- 含み益・含み損の考慮: 含み益が出ている資産を売却すると税金が発生します。一方で、もし他の特定口座資産で含み損が出ている場合は、売却して損を確定させることで、含み益と相殺し、税負担を軽減できる可能性があります。
- 長期保有優遇税制など(現状はないが、将来の税制改正に注意): 将来的に長期保有資産に対する税制優遇などが導入される可能性もゼロではありません。税制の動向は常に注視が必要です。
- 売却する銘柄の選択: 複数の投資信託や株式を保有している場合、どの銘柄から売却するかを選択できます。利益率が高いものから売るか、税負担を抑えるために含み損と相殺できるものを優先するかなど、戦略的に判断します。
預貯金の活用
預貯金は、最も流動性が高く元本保証されている安全資産です。教育資金のうち、特に直近で必要となる資金や、予期せぬ支出に備える資金として活用します。教育資金のピーク期が迫っている場合、預貯金比率を高めに保つこともリスク管理の一環として考えられます。
具体的な資金捻出シミュレーション例(架空設定)
設定:
- 子どもの年齢: 17歳(高校3年生)
- 大学進学予定: 1年後に入学
- 必要資金: 入学時200万円、大学4年間で毎年150万円(計600万円)。合計800万円。
- 保有資産:
- 積立NISA: 400万円(評価額、含み益100万円と仮定)
- 特定口座(投資信託):200万円(評価額、含み益50万円と仮定)
- 預貯金: 300万円
- 合計: 900万円
資金捻出計画例:
- 入学時(1年後)の200万円:
- まず預貯金から100万円を充当。残りの100万円は積立NISAから売却。積立NISAの非課税メリットを活かしつつ、預貯金の枯渇を防ぐ。
- 大学1年目(2年後)の150万円:
- 残りの預貯金200万円から150万円を充当。預貯金残高は50万円に。
- 大学2年目(3年後)の150万円:
- 積立NISA資産(残高約300万円)から150万円を売却。
- 大学3年目(4年後)の150万円:
- 積立NISA資産(残高約150万円)から150万円を売却(積立NISA残高ほぼゼロに)。
- 大学4年目(5年後)の150万円:
- 特定口座資産(残高約200万円)から150万円を売却。売却益に対する税金が発生するため、必要に応じて他の含み損資産との損益通算を検討。
この例における留意点:
- 市場変動は考慮していません。売却時に資産価格が下落しているリスクがあります。
- 特定口座の売却益に対する税負担を概算で計算し、手取り額を把握する必要があります。
- この計画実行後、預貯金は50万円、特定口座資産は50万円(売却益課税分考慮前)が残る計算になります。親の老後資金など、今後の資金計画に十分な資産が残るか確認が必要です。
このように、必要時期、資産状況、税負担、そして親のライフプラン全体を考慮して、具体的な取り崩し順序をシミュレーションすることが有効です。
計画実行上の留意点
- 市場状況の確認: 資金が必要となる直前の市場状況を確認し、大きく下落している場合は、他の資産からの捻出を優先するなど柔軟な対応も検討します。
- 税制改正への対応: 譲渡所得税などの税制は変更される可能性があります。常に最新の税制情報を確認し、計画に反映させることが重要です。
- 子の進路変更への柔軟性: 予期せぬ進路変更(留学、大学院進学など)により、教育資金の必要時期や金額が変わる可能性も考慮し、計画にある程度の柔軟性を持たせておくことが望ましいです。
- 親自身のライフプランとのバランス: 教育資金の準備・活用は、親の退職資金や老後資金計画と密接に関わっています。教育資金の捻出が、将来の自分たちの生活資金を圧迫しないよう、常に全体的なバランスを意識する必要があります。
まとめ
教育資金の「使う時期」が近づいたら、積立NISAを含む保有資産全体を見渡し、計画的な資金捻出戦略を立てることが非常に重要です。必要資金の正確な把握、資産ごとの特性理解、そして税負担を最小限に抑える視点を持って、具体的な売却・活用順序をシミュレーションしてください。子の成長段階や市場環境、そして親自身のライフプランの変化に応じて、この戦略も定期的に見直し、柔軟に対応していくことが、教育資金計画を成功に導く鍵となります。