教育資金のピーク期に備える:積立NISAと課税口座を組み合わせた資産形成戦略事例
教育資金のピーク期に備える:積立NISAと課税口座を組み合わせた資産形成戦略事例
お子様の教育資金準備は、多くのご家庭にとって重要な課題です。特に大学進学時にはまとまった資金が必要となり、教育資金準備における「ピーク期」と言えるでしょう。積立NISAは教育資金準備の強力な手段の一つですが、目標とする教育資金額や積立期間によっては、積立NISAの非課税投資枠だけでは十分でないケースも考えられます。本稿では、積立NISAを満額活用しつつ、さらに課税口座(特定口座など)も併用して教育資金の目標達成を目指す戦略について、具体的な事例を交えて考察します。
教育資金のピーク期と目標額の設定
教育資金のピークは、一般的に高校卒業から大学入学、そして在学中の費用負担が大きい時期です。文部科学省の調査などによれば、私立大学文系の場合で約400万円~500万円、私立大学理系で約500万円~600万円、医歯薬系ではさらに多額の費用が見込まれます。これらの費用には、入学金、授業料、施設設備費などに加え、下宿費用や仕送りなども含まれます。
具体的な目標額を設定する際には、お子様が何歳の時にいくら必要になるかを具体的に洗い出すことが重要ですいます。例えば、現在10歳のお子様が18歳で大学に進学する場合、8年後の必要資金を準備する必要があります。必要となる総額から、児童手当の積立や学資保険など、既に準備している資金を差し引いた金額が、今後資産運用で準備すべき目標額となります。
積立NISAだけでは不足する場合の検討
積立NISAの年間投資枠は120万円(新NISA成長投資枠と積立投資枠の合算、旧制度は年間40万円)です。例えば、年間120万円を10年間積み立てた場合、元本は1,200万円となります。仮に年率3%で運用できたとしても、8年や10年といった比較的短い期間で、数千万円規模の教育資金を積立NISAの枠だけで準備するのは難しい場合があります。特に、目標額が大きい場合や、準備期間が短い場合には、積立NISAだけでは不十分となる可能性が高まります。
積立NISA+課税口座戦略の基本的な考え方
積立NISAの非課税メリットは非常に大きいため、教育資金準備においても積立NISA枠を優先的に活用することが基本となります。年間投資枠を最大限に利用しても目標額に届かない場合に、その不足分を課税口座(特定口座など)での運用で補うという戦略が考えられます。
この戦略の基本的な考え方は以下の通りです。
- 積立NISAを最優先で満額活用: 非課税メリットを享受するため、まずは積立NISA枠を年間最大限度額まで積立投資します。
- 課税口座での補完: 積立NISA枠だけでは不足する教育資金目標額に対して、課税口座での積立投資やスポット投資を併用します。
- ポートフォリオの設計: 積立NISAと課税口座を合わせた資産全体で、教育資金の必要時期と目標額、ご家庭のリスク許容度に応じたポートフォリオを設計します。必ずしも積立NISAと課税口座で同じ銘柄や配分にする必要はありませんが、全体のバランスが重要です。
- 管理と見直し: 定期的に資産全体の状況を確認し、教育資金が必要となる時期が近づくにつれて、リスクを抑える方向で見直し(リバランスやリスク資産の売却)を検討します。
具体的な運用戦略事例(Aさんの場合)
ここで、架空のAさんの事例を通じて、積立NISAと課税口座を組み合わせた教育資金準備の戦略を見てみましょう。
- Aさんの状況: 40代半ば、会社員管理職。お子様は現在小学校高学年。
- 教育資金の目標: お子様が18歳で大学進学する際に、入学一時金として500万円、在学費用として年間200万円×4年間(合計800万円)の、計1,300万円を資産運用で準備したい。
- 準備期間: 約8年間。
- 積立状況: 新NISA制度で年間120万円(積立投資枠+成長投資枠)を全世界株式インデックスファンドで積立中。年間120万円×8年間で、元本は960万円。目標の1,300万円には不足する可能性がある。
- 戦略: 積立NISA年間120万円に加え、課税口座(特定口座)で年間30万円を全世界株式インデックスファンドに積立投資する。年間合計150万円を積立、8年間で元本は1,200万円。
Aさんは、積立NISAと同様に課税口座でも全世界株式を選定しました。その理由として、以下の点が挙げられます。
- 管理の簡便性: 積立NISAと課税口座で同じ銘柄に投資することで、全体のポートフォリオ管理やリバランスが容易になります。
- 分散投資: 全世界株式は地域・資産の分散が効いており、教育資金のような「必要な時期が決まっている資金」の準備において、過度な価格変動リスクを抑えつつ、一定のリターンが期待できると考えました。
- リスク許容度: Aさんは比較的リスク許容度が高く、8年という準備期間であれば、株式中心のポートフォリオでも対応可能と判断しました。
Aさんの場合、年間150万円の積立を8年間続けると、元本は1,200万円になります。仮に年率3%で運用できた場合、8年後には約1,400万円程度になっていると試算できます(運用状況によって変動します)。これで目標の1,300万円を達成できる見込みです。
課税口座運用の注意点とより高度な視点
課税口座での運用には、積立NISAにはない注意点があります。運用益に対して税金(所得税、住民税、復興特別所得税)がかかる点です。国内株式の配当金やETFの分配金、投資信託の売却益などに対して、原則として20.315%が課税されます。特定口座(源泉徴収あり)を選択すれば、金融機関が自動で税金を計算・納付してくれるため、確定申告は原則不要となります。
より高度な視点としては、以下のような点が考えられます。
- 特定口座とNISAの使い分け: 積立NISA枠は非課税期間が無期限化されたため、より長期的な視点での運用に適しています。一方、課税口座で運用する資金は、教育資金のように比較的期間が短い(例えば10年以内)資金の準備に充てる、といった使い分けも検討できます。あるいは、積立NISAで全世界株式、課税口座で高配当株など、異なる戦略を組み合わせることも可能です。
- 損益通算と繰越控除: 課税口座内で発生した売却損は、他の課税口座内の譲渡益や配当所得と損益通算できます。また、損益通算で控除しきれなかった損失は、確定申告を行うことで最長3年間繰り越すことができます。教育資金の取り崩し時期に備え、こうした税制メリットも理解しておくことが重要です。
- 教育資金専用口座の管理: 課税口座で教育資金を運用する場合、他の目的(老後資金など)の資産と混同しないよう、口座を分ける、あるいは内部で明確に区分して管理することが望ましいでしょう。
まとめ
教育資金のピーク期に備えるためには、積立NISAの枠だけにとらわれず、課税口座を効果的に活用することも有効な戦略の一つです。積立NISAで非課税メリットを最大限に享受しつつ、不足分を課税口座で補うことで、目標とする教育資金額の達成可能性を高めることができます。具体的な運用においては、積立NISAと課税口座を合わせた資産全体でのポートフォリオ設計、定期的な見直し、そして課税口座特有の税制に関する理解が不可欠です。本稿の事例が、皆様の教育資金準備における次なる一手をご検討いただく上で、何らかの示唆となれば幸いです。